『アリアドネの声』がおすすめの人
ドローンに興味がある
障がい者支援に興味がある
ヘレン・ケラーを知っている
今回は井上真偽さんの『アリアドネの声』をあらすじ・見どころ・感想を紹介します。
ひとことで言うなら、地下建築に取り残された「見えない・聞こえない・話せない」障がい者を、6時間以内にドローンで救出する物語!
ネタバレなしで紹介するので、安心して読み進めてみてください。
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『アリアドネの声』のあらすじ・登場人物
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舞台 | 日本、都市部 |
時代 | 現代 |
登場人物
■高木ハルオ
- ベンチャー企業でドローンの講師として働く
- 地下に取り残された中川博美の捜索を託される
■韮澤粟緒
- 高木の元同級生
- 失声症の妹を持つ
■中川博美
- 知事の姪
- 「見えない・聞こえない・話せない」の三重障がいを持つ
- 地下に取り残される
障がい者との共生を目指す都市開発プロジェクト「WANOKUNI」
5層からなる巨大地下建築には、最先端の技術が結集しており、新時代の街になるはずでした。
しかしオープニングセレモニーの日に、巨大地震に見舞われ、倒壊してしまいます。地下5階に1人取り残されたものの、浸水や火災、崩落があり、救助隊が駆けつけられません。
しかも取り残された人は、「見えない・聞こえない・話せない」の三重障がいを持つ女性・中川博美でした。地下3階にシェルターはあるものの、一人で移動するのは不可能です。
そこでWANOKUNIプロジェクトに携わる企業でドローン講師を務める高木ハルオに、彼女の捜索が託されます。救助方法は、ドローンで先導してシェルターまで誘導すること。
だけど、目も耳も利かない彼女に、ドローンがいることをどのように伝えれば良いのでしょうか。
浸水までのタイムリミットは6時間。迷宮のような巨大地下建築から、ドローン一台で女性を救い出す、前代未聞のミッションが始まります。
『アリアドネの声』の見どころ・キーワード
- アリアドネ
- 見えない・聞こえない・話せない:ヘレン・ケラー
- ドローンによる救出劇
アリアドネ
タイトルの「アリアドネ」とは、ギリシャ神話に登場する女性のこと。
ギリシャの英雄・テセウスが、ミノタウロスの潜む迷宮から脱出する際に、アリアドネから受け取った糸玉を用いたと言われています。
この逸話から生まれたのが、「アリアドネの糸」という言葉。
アリアドネの糸
難しい状況から脱却するための道しるべとなるもの
本書のタイトルは「アリアドネの声」。では、「声」で要救助者を救うのでしょうか。でも、要救助者は耳が聞こえません。
見えない・聞こえない・話せない:ヘレン・ケラー
『アリアドネの声』のテーマの一つ、「見えない・聞こえない・話せない」である三重苦(三重障がい)。
三重苦といえば、ヘレン・ケラーが思い浮かぶ方も多いでしょう。実際に『アリアドネの声』でも、章ごとにヘレン・ケラーの著書から引用した一節が掲載されています。
ヘレン・ケラーを知っているのと知らないのでは、物語への理解度が大きく異なると思うので、ヘレン・ケラーについて簡単に紹介します。
1880年 | アメリカで生まれる |
1歳 | 病気で視力と聴力を失い、話せなくなる(盲ろう) |
7歳 | 恩師サリヴァンと出会い、発声法を学び始める |
20歳 | 現在のハーバード大学にあたる大学に入学 |
22歳 | 在学中に自伝「わたしの生涯」を連載・出版 |
29歳 | アメリカ社会党に入党 以後、婦人参政権運動などに取り組む |
地下5階にたった一人で取り残された、ヘレン・ケラーのように三重障がいを抱える女性。
彼女を救助する際に生じる困難を通して、障がい者が抱える課題に気付かされます。
ドローンによる救出劇
『アリアドネの声』の大きな特徴は、救助者と要救助者に物理的な距離があること。
一般的に、救助といえば消防士などが現場に駆けつけ、要救助者を自らの手で救い出しますよね。しかし本書では、ドローン操縦士をはじめとした救助者たちは、安全な場所で待機しています。
現場に向かうのは、一台の災害救助用ドローンだけ。操縦士はドローンから送られてきた映像を見ながら、要救助者を捜索・誘導します。
ただし、現場の様子をすべて把握できるわけではありません。やはりその場に人間がいないことによる弊害も表れるんですよね。
今後現実でも、ロボットが救助活動にあたるケースが増えていくとは思いますが、そのような近未来の課題にも気付ける作品です。
『アリアドネの声』の感想
読みやすさ | ★★★★★ | 展開が速くてサラサラ読める! |
驚き | ★★★ | 帯でハードルが高まりすぎたかも? |
人物の魅力 | ★★★★ | 障がい者について考えさせられる |
文章の美しさ | ★★★ | 臨場感のある描写 |
テーマ性 メッセージ性 | ★★★★ | 最先端の都市開発と障がい者との共生 |
難解度 | ★★★ | 誰でも楽しめると思う! |
おすすめ度 | ★★★★ | 読書に慣れていない人にも勧めやすい本! |
親切なフロアマップと階層図
物語の舞台は、巨大な地下建築。最先端の"街"なので、なかなか想像しにくいんですよね。
ですが本書には、本の冒頭に階層図、各章の冒頭にフロアマップと残り時間が書かれているので、常に今の状況を把握できます。
フロアマップの描き方もあってか、良い意味でゲームに没頭しているような感覚になりました。
また、救助に入る前の会話でルートを説明してくれているので、その瞬間の目的もわかりやすい。今はここに向かっているのね、って。
なので、小説に慣れていない方や、1日に数ページずつしか読めなくて展開を忘れちゃうという方でも読みやすいと思います!
スリリングな救出劇と突如ミステリー
物語の軸は、ドローンによるスリリングな救出劇です。次々と立ちはだかる困難に対して、スピーディーに対応していく、まさに手に汗を握る展開。
6時間という制限時間があることもあり、展開が早いので、あっという間に読み終わってしまいました!
さらに後半で一つの謎が生じて、ミステリー要素が加わり、物語としてさらに深みを増します。タイムリミットが迫る緊迫感と謎が解けていく爽快感を一気に味わえました。
ミステリーを読みたいけど、がっつり推理ものは疲れちゃう。という方にもおすすめ!
「無理だと思ったら、そこが限界」
主人公の高木は、幼い頃に水難事故で兄を亡くしています。その兄の口癖は、「無理だと思ったら、そこが限界」。
高木はこの言葉を胸に、何事も諦めずにチャレンジし続けることが大切だと信じています。
しかしその言葉を聞いた元同級生・韮澤には、「うざい」と言い捨てられました。
正直、僕も韮澤派なんですよね。。。限界はあるでしょって思いながら読んでいました。
あまりにも「無理だと思ったら、そこが限界」というセリフが登場するので、「このままゴリ押しされたら苦手かも…」と思っていたのも本音。
ですが救助活動のなかで、その言葉に対する主人公の解釈が変わっていきます。僕自身もその解釈を読んで納得できました。
もしかしたら、僕のように読者にこの言葉を疑わせるために、あえて多用していたのかもしれません。
「無理だと思ったら、そこが限界」
そう思って頑張りすぎてしまっている方は、ぜひ本書を読んでみてください!
『アリアドネの声』と井上真偽さんの基本情報
井上真偽さんのプロフィール
生年月日 | 非公開 |
デビュー作 | 『恋と禁忌の述語論理』(2015年) |
受賞作 | 第51回メフィスト賞『恋と禁忌の述語論理』 |
『アリアドネの声』のあらすじ・感想:まとめ
今回は井上真偽さんの『アリアドネの声』のあらすじ・見どころ・感想を紹介しました。