『滅茶苦茶』がおすすめの人
コロナ禍の作品を読みたい
マッチングアプリをやったことがある
最近、友人と再会した
今回は染井為人さんの『滅茶苦茶』をあらすじ・見どころ・感想を紹介します。
ひとことで言うなら、コロナ禍に起きたひょんなことから、人生が滅茶苦茶になっていく三人の物語!
ネタバレなしで紹介するので、安心して読み進めてみてください。
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『滅茶苦茶』のあらすじ・登場人物
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舞台 | 日本各地 |
時代 | 2020年 |
登場人物
■今井美世子
- 順調にキャリアを歩む三十代女性
- 飲み会が好きで、"おひとりさま"を満喫
- 友人の勧めで、マッチングアプリに登録
■二宮礼央
- 進学校の高校二年生
- 入学後「井の中の蛙」だったことに気付き、友人から見下されていると感じている
- リモート授業が続いてほしいと思っている
- 偶然、不良になった同級生と再会
■戸村茂一
- ラブホテル経営者の中年男性
- 長男が独り立ちし、妻と双子の次男・三男と暮らす
- 持続化給付金を受け取れず、国と自治体に不満を抱えている
『滅茶苦茶』は、コロナを機に人生が転落していく物語。三人の人生が交互に描かれているので、あらすじも一人ずつ紹介します!
今井美世子パート
順調にキャリアを歩んでおり、東京タワーの見えるマンションで、シングルライフを謳歌していた美世子。
コロナ前は、週に二回は飲み会に行き、いろいろな人の話を聞くのが好きでした。しかし、コロナ禍になってリモートワークが増え、一人の時間が増えると、プライベートへの充足感が足りていないことに気付きます。
そんななか、友人に勧められてマッチングアプリを始めてみると、すぐに中国系マレーシア人とマッチング。経験したことがないほどの熱い言葉で求愛してくる彼に、美世子はどんどん夢中になっていきます。
出会って間もないながらも、結婚を意識し始めていたころ、彼から暗号資産投資の話を聞き……。
二宮礼央パート
小中学生のときは、まわりが「猿」に見えるほど、成績がずば抜けていた礼央。しかし偏差値の高い高校に入学し、「井の中の蛙」だったことに気付きます。
一緒にいる"友だち"のようなものはできたものの、成績の悪い自分は見下されていると感じており、居心地の悪さを感じていました。
そんなある日、友だちと下校中、不良にからまれるも、その不良は小学生時代の同級生・聖也でした。小学生のときに、礼央に九九を教えてもらったことに恩を感じていた聖也は、礼央を遊びに誘います。
礼央は強引な聖也に連れられて夜遊びをするようになるのですが……。
その選択が、滅茶苦茶な人生の始まりでした。
戸村茂一パート
父のラブホテルを継ぎ、3店舗を経営する茂一。かつては父の仕事に嫌悪感を抱いていたものの、現在は誇りを持って臨んでいます。
しかしラブホテルは、コロナ禍における持続化給付金の対象外。「救う価値のない仕事」だと国や自治体から捨てられたことに、強い怒りを感じました。
そんななか、スナックで出会った女性にある仕事を勧められ……。
茂一の人生は、崩壊していきます。
『滅茶苦茶』の見どころ・キーワード
- コロナ前後の変化
- 明日のための感染対策と、今日を生きるための経済活動
- 『ケーキの切れない非行少年たち』
コロナ前後の変化
三人の人生が変わっていくきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。なので、三人のコロナ前後の変化を押さえておくと、物語全体への理解が深まるはずです。
今井美世子
■コロナ前
- 仕事が中心
- 週に二回は飲み会
- シングルライフを謳歌
■コロナ後
- リモートワークで余裕が生まれる
- 飲み会には行けない
- プライベートへの不満足感
→マッチングアプリを開始
二宮礼央
■コロナ前
- 小中学生時代は成績優秀
- 高校に入って、成績下位に
- 友人との距離感に悩む
■コロナ後
- アウェイな学校に行かなくて良くなる(リモート授業)
- 勉強への意欲もなくなってしまう
→学歴とは無縁の不良と遊ぶようになる
戸村茂一
■コロナ前
- ラブホテルを経営
- 妻と子ども三人(長男は東京の大学進学のために独り立ち)
■コロナ後
- ラブホテルの経営が傾く
- 給付金を受け取れず、精神的な余裕がなくなる
→怪しい"仕事"に手を出す
明日のための感染対策と、今日を生きるための経済活動
誰もが経験したことだと思いますが、コロナ初期の「感染対策が必要なのはわかっているけど、生きるためにはお金が必要」というジレンマが描かれています。
外に出たら感染する"リスク"があるといわれても、今日を生きるためのお金を稼ぐためには働かなくてはいけません。そんな時期ですから、三人の人生にも"お金"がつきまといます。
これまでの方法では稼げなくなったり、余暇が多いからこそお金を使ってしまったり……。
冷静に読んでいると「なんでそんなことするの?」という行動をする描写もあるのですが、コロナ初期の閉塞感や緊迫感を思い出してみると納得できると思います。
『ケーキの切れない非行少年たち』
かつての同級生である不良・聖也と再会した礼央ですが、これまで勉強に勤しんできた自身と、ほとんど学校に行っていない不良(聖也の友人や彼女)たちとの間に、カルチャーショックを感じています。
礼央にとっては信じられないような行動を、当たり前のようにするんです。人を傷つけたり、母の彼氏に自分の恋人を売ったり。
誤解を恐れずに言うと、読者は礼央側だと思うんですよね。なので、聖也たちの行動は、正直まったく理解できません。正直、イライラしてしまうほど論理的ではない行動をするんです。
ただ、僕は『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治、新潮新書)を読んでいたことで、彼らが抱える問題についても着目できました。
『ケーキの切れない非行少年たち』の概要
少年院にいる非行少年たちは、ケーキを切れない(等分できない)。つまり、認知能力が低く、自分の罪について「反省」する以前に、何が悪いのかどうかを理解する能力が足りていない可能性がある。
そのため、先生から見捨てられてしまったり、先を考えずに悪さをしてしまったりする。
学校に通う礼央と、さまざまな事情で学校に通っていない聖也たちを比較しながら読むことで、より深く物語を楽しめると思います!
『滅茶苦茶』の感想
読みやすさ | ★★★★ | 300ページほどでサクサク読める! |
驚き | ★★ | 展開が予測できるからこそ冷や汗 |
結末のスッキリ度 | ★★★ | 最後はドタバタ……? |
人物の魅力 | ★★★★ | さまざまな面で共感できる |
文章の美しさ | ★★★ | 個性的な比喩などもなく読みやすい |
テーマ性 メッセージ性 | ★★★★ | コロナ禍の人間模様 |
難解度 | ★★ | コロナ禍の実体験をもとに読み解ける |
おすすめ度 | ★★★ | 今だからこそ読むべき作品! |
コロナの閉塞感と"心のコロナ"
本書では、コロナ禍の閉塞感と、そのなかで生じる精神的な不安定さを「心のコロナ」と表現しています。
実際に、コロナウイルスに感染していなくても、緊張感のある情勢と緊張感のないリモート生活で心が疲れてしまった方も多いのではないでしょうか。
感染しなければオールOK。とはならないのが難しいところですよね。もやもやが溜まって行政に文句を言いたくなるけど、じゃあどうすれば良いのかと聞かれたらわからない。誰もわからない。
コロナが収まったら……と想像してみても、つい浮かんでくる将来への不安。まさに「心のコロナ」にかかっていた、いや、今もかかってしまっている方も多いでしょう。
2020年に誰もが経験した"あの頃"をリアルに覚えている今だからこそ、読んでほしい作品です。
"なんとなく"の危険性
本書では、三人が自ら下した選択によって、徐々に首を絞められていきます。俯瞰的に見れば「そっちを選んじゃだめ!」ってわかるんですが、本人たちからすればそこまで重要なポイントではないんですよね。
恋人や友人に流されて、「なんとなく」「今日だけ良いか」なんて軽い気持ちで行動を起こします。そして、気づいたら、退路を断たれている。
これって三人の自業自得で済ませていい問題ではないと思うんです。だって人間なんて、そんなもんでしょ。
一日、一週間を振り返ってみて、納得のいくまで考えて慎重に選択した行動ってどのくらいありますか?
たとえば僕は今日、だら~とアプリストアを見て、なんとなくダウンロードしました。もしそれがウイルスアプリだったら、人生が変わってしまっていたかもしれません。
このように、何気ない行動一つが、人生が滅茶苦茶になるきっかけになっている危険性があるんです。本書を読んで、そんな怖さを感じました。
マッチングアプリに登録したから。同級生の遊びの誘いにのったから。給付金をもらえず、愚痴っていたから。
三人が破滅への階段を猛スピード下っていく。だけど読者には何もできない。しかも、読者には先が読めてしまう。「あなた、いまやばいところにいるよ」って。だから、怖い。
パニックに陥る三人をどこか他人事で眺めている自分と、明日は我が身という恐怖を感じる自分がいるのを感じました。
『滅茶苦茶』と染井為人さんの基本情報
染井為人さんのプロフィール
生年月日 | 1983年7月21日 |
デビュー作 | 『悪い夏』(2017年) |
受賞作 | 『悪い夏』第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞 |
『滅茶苦茶』のあらすじ・感想:まとめ
今回は染井為人さんの『滅茶苦茶』をあらすじ・見どころ・感想を紹介しました。