いつだって成瀬は変だ。十四年にわたる成瀬あかり史の大部分を間近で見てきた私が言うのだから間違いない。
『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/新潮社
こんな方におすすめ
- 地元に西武などの百貨店があった
- 東京に上京してきた
- 自分のやりたいことを躊躇ってしまう
今回は宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』のあらすじ・見どころ・感想を紹介します。
ひとことで言うなら、西武大津店の営業終了が迫る街を舞台に、最高に愛おしい主人公・成瀬あかりが旋風を巻き起こす青春小説!
ネタバレなしで紹介するので、安心して読み進めてみてください。
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『成瀬は天下を取りにいく』のあらすじ
舞台 | 滋賀県大津市膳所 |
時代 | 2020年頃 |
『成瀬は天下を取りにいく』は、六編が収録された連作短編集。
滋賀県大津市膳所(ぜぜ)を舞台に、主人公・成瀬あかりにとっては日常、だけど読者にとっては非日常(?)な青春が描かれています。
幼馴染の島崎と同じように、あなたもきっと成瀬に夢中になるはず!
- ありがとう西武大津店
- 膳所から来ました
- 階段は走らない
- 線がつながる
- レッツゴーミシガン
- ときめき江州音頭
ありがとう西武大津店
成瀬:中学二年生
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
2020年夏、コロナ禍真っ只中。街の象徴である西武大津店の閉店が迫るなか、幼馴染の成瀬は閉店まで毎日西武大津店から中継されるテレビ番組に映り込みに行くらしい……。
膳所から来ました
成瀬:中学二年生
「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」
西武大津店の閉店直後の九月四日。成瀬は漫才日本一を決める大会・M-1に出演すると島崎に告げる。
「待って。誰と出るの」「島崎しかいないだろう」
“膳所から”日本一を目指す女子中学生コンビ「ゼゼカラ」の結果は――?
階段は走らない
成瀬:登場なし
主人公:敬太(40代)
<西武大津店、営業終了へ>
西武が一年後に営業終了するという知らせを聞いた敬太は、同級生のマサルとともに大津店を訪れると、小学生時代のクラスメイトと偶然再会する。
弁護士であるマサルの事務所でお酒を飲みながら思い出話に花を咲かせていると、当時突然転校してしまった「タクロー」の存在を思い出す。
線がつながる
成瀬:高校1年生
滋賀県立膳所高等学校入学式。
大貫は教室に入ってきた成瀬の姿を見て頭を抱えた。なんと成瀬は坊主頭だったのだ。
どうやら高校三年間で伸びる髪の長さを検証するらしい。
「高校デビュー」を目論む大貫は、変わり者の成瀬と同じ中学校出身であることはバレたくなかったが……。
レッツゴーミシガン
成瀬:高校1年生
百人一首全国大会に出場する錦木高校の西浦航一郎は、広島県代表として出場する膳所高校の成瀬あかりの独特なフォームに目を奪われる。
同級生・結希斗に引っ張られる形で成瀬に声をかけると、思いのほか好意的な返答があった。
「あさって大津港に来てほしい。ミシガンに乗ろう」
ときめき江州音頭
成瀬:高校1年生
大学受験を控えた成瀬は、毎年ゼゼカラとして島崎とともに司会を務める「ときめき夏祭り」の準備を進めていた。
そんななか島崎から、父の転勤と大学への進学を機に、東京に引っ越すことを告げられる。
幼少期から当たり前のように一緒にいた島崎がいなくなることを初めて実感した成瀬は、勉強もなにもかも手につかなくなり……。
『成瀬は天下を取りにいく』の見どころ
実在した百貨店・西武大津店
作中にも登場する西武大津店は、実際に2020年8月31日まで営業していました。関西最後の「西武」として、惜しまれながらも44年の歴史に幕を下ろしたそうです。
今回描かれているのは大津店ですが、地元に西武があった方にとってはふるさとの温かさを感じられる一冊になっているはずです。
ちなみに僕は東京出身で、地元のみんなが通う百貨店というとピンとこないのですが、それでも地元民が集う空間を思い出して懐かしくなりました。
身近に西武があった方はもちろん、ふるさとを持つすべての方が郷愁に駆られる作品だと思います!
最高に愛おしい主人公・成瀬あかり
本作の魅力は、なんといっても個性豊かな主人公・成瀬あかりの存在。
ローカル局の中継に映り込みに行ったり、高校入学とともに坊主にしたり、幼い頃にはしゃぼん玉少女としてメディアに取り上げられたり……。とにかく周りを驚かせるようなことを次々と起こしていきます。
将来に掲げる大きな目標は、「200歳まで生きること」。200歳?と思ったあなたも、読み進めるうちに、島崎と同じようにこう思い始めるでしょう。
わたしは成瀬あかり史を見届けられないことを残念に思うと同時に、できる限り成瀬をそばで見ていようと誓ったのだった。
『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/新潮社
200歳なんて無理だと思うけど、成瀬なら本当に実現するかもしれない。でも、自分は200歳まで生きる自信がないし、そうなると成瀬の歴史を最後まで見届けられない。
じゃあ、できる限りそばで見ていようじゃないか。僕もそう思ってしまいました。
成瀬は淡々とした口調で自分のやりたいことを告げるため、一見他人に関心がないように思えます。でも、決してそうじゃない。
『ありがとう西武大津店』の終盤でも成瀬の「人間らしさ」が垣間見れますし、『ときめき江州音頭』で島崎との別れを寂しく思う姿は”普通の高校生”です。
逆に世間の声よりも、自分の気持ちを信じて行動している姿は、本来の「人間らしさ」なのかもしれませんね。
成瀬あかりとともに、彼女が愛する地元・膳所も好きになる作品です。
続編の発売が決定!
宮島未奈のデビュー作である『成瀬は天下を取りにいく』は、著名人からの絶賛コメントや口コミなどによって日に日に注目度を高めています。そんななか、2024年1月24日に続編となる『成瀬は信じた道をいく』の発売が決定!
公開された表紙を見ると、どうやら成瀬が「びわ湖大津観光大使」のたすきを着けている!?次はどんな景色を見せてくれるのでしょうか。。。
成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 読み応え、ますますパワーアップの全5篇!
引用:Amazon
『成瀬は天下を取りにいく』の感想
街の象徴への憧れ
東京はたびたび「憧れの街」として描かれますが、都心で生まれ育った僕からすると「地元」が羨ましくもあります。
東京にもスカイツリーだったり、109だったり、いわゆるランドマークはあるでしょう。
しかし、それは「俺らの◯◯」では決してないんですよね。109も、スカイツリーも、みんなのものです。
反対に東京出身の僕から見た「西武大津店」は、地元の象徴であり、「俺らの西武」のようなイメージがあります。
出会いも、別れも、再会も、西武。東京に出てきて地元が近い人と出会ったときの話題も西武。
そんな存在は東京にはないんです。新宿の百貨店だって、「地元感」はありません。
なので、本作を読みながら「西武大津店」のある環境で生まれ育ったら、どんな人生だったのだろうかと思いを馳せてしまいました。
もちろん東京のほうが恵まれている部分も多くあるでしょうし、どちらが良いというわけではなく、あくまでもないものねだりの妄想として、ね。
そういった「西武大津店」への憧れの気持ちも含め、成瀬や友人たちを非常にまぶしく感じました。
200歳まで生きる。とか言ってみようかな
ありきたりな感想ですが、成瀬あかりを見ていると自分も前向きに行動してみようという気持ちになります。
成瀬は「200歳まで生きる」をはじめ、「大津にデパートをつくる」などの目標を数多く語っています。
しかし、成瀬が口に出したことがすべて実現するわけではありません。作中にも成瀬が挑戦を断念するシーンも描かれています。
でも成瀬は、人生全体で見たら、なにも諦めていないんです。
「やってみないとわからないことはあるからな」
成瀬はそれで構わないと思っている。たくさん種をまいて、ひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦した経験はすべて肥やしになる。
『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/新潮社
人間は、どうしても失敗ばかりに目を向けてしまうものです。でも、それはまいた種の一つが咲かなかっただけなんです。
植物の栽培にも間引きが必要なように、多少の選択は必要だと思いますが、僕も含め多くの方はそもそもまいている種が少ないのかもしれません。
少ないなかで、さらに間引きもしてしまう。だから成瀬のような人間と比べると、花の数も少ないのではないでしょうか。
成瀬を見習って、もう少しだけでも種の数を増やしてみようと思いました。
『成瀬は天下を取りにいく』のあらすじ・感想:まとめ
今回は宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』を紹介しました!
新作の『成瀬は信じた道をいく』も楽しみ!