「ただいま書評研修中!!」は、一介の小説好きがいつか他媒体で書評やブックレビューを書くことを夢見て、書評を実践的に学んでいくコーナーです。どうかお手柔らかに。
「21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!」といった、ミステリー好きの端くれがまんまと購入してしまった惹句が書かれているのは、市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社)だ。第26回鮎川哲也賞を受賞した著者のデビュー作である。
舞台は1980年代、特殊な技術を活用したクラゲ型飛行船・ジェリーフィッシュが開発され、技術開発部のメンバーを中心とした六人の男女が次世代型の航空試験を行っていた。自動航行プログラムが搭載されており、フライトは順調に進んでいたが、「教授」と呼ばれる船員が死体となって発見される。技術開発部の命運をかけたテスト中に起きた驚天動地の事態に船内は混乱するが、さらには自動航行プログラムが故障して雪山に不時着し、五人は一人の死体とともに孤立してしまう。脱出不可の状況に陥ったメンバーは、助けを待つことにするも、自然と「教授」を殺害した犯人探しが始まり、互いへの不信感が漂うなか、第二の事件が起きる。
教授の死や自動航行プログラムの故障といったトラブルに見舞われる「ジェリーフィッシュ」パートと、警察が捜査を進める「地上」パートから成る構成は、同じく『そして誰もいなくなった』をオマージュした綾辻行人『十角館の殺人<新装改訂版>』(講談社文庫)を彷彿とさせる。「プロローグ」や「インタールード」では、ある女性に心を寄せる男性の切実な心情が綴られており、一連の事件にいたるまでの紆余曲折が垣間見える。過去・事件当日・事件後を行き来しながら登場人物たちの嘘が暴かれていき、追い打ちをかけるようなショッキングな結末には言葉を失った。ジェリーフィッシュの動力に関する説明はがっつり理系だが、それを難しく感じさせない筆致と、特殊な設定でありながらロジカルで納得のいく結末には、「21世紀の『そして誰もいなくなった』」というフレーズに負けない非凡さを感じる。
ちなみに翌年には続編の『ブルーローズは眠らない』(東京創元社)が刊行され、2024年現在では「マリア&漣」シリーズとして全五作品が販売されている。いつか全部読みたい。